大崎善生さん著。
めちゃくちゃ面白かった。
実は他の本を浮気してこれを読み始めたのですが、すっかりこちらが本命になってしまいました。
東京から新幹線で新潟まで行き、船でウラジオストックまで渡り、シベリア鉄道へ。
モスクワからは、国際列車を乗り継いでポルトガルのリスボンまで。
ICEやTGV、タルゴやAVEにも乗車する。
著者は旅好きだが、てっちゃんではなく、将棋雑誌の編集者にして作家。
それゆえ、楽しく読めた。
次のような文章に、心を射抜かれてしまった。
窓際に座り、列車に揺られながらほとんど変化のない単調な光景を眺め続けていると、頭の中に不思議な酵素が分泌されるのだろうか。雲一つない清純な空から注ぎ込む光に身をまかせているうちに、一瞬、自分が夢の世界の中に足を踏み入れてしまっているような錯覚に陥る。
60時間以上も、寝ているか窓の外のほとんど変わらない風景をただ眺めているか。退屈と言えば退屈だし、幸せと言えば幸せだ。尾てい骨がしびれたようにじんじんしていて、その感覚は悪くない。
ビールが美味い国に悪い国はない、というのは私の持論であるがもちろん何の根拠もない。
旅の間は駄洒落ばかりを考えていたというが、その作品も秀逸だ。
例えば、
マドリッドのアトーチャ駅に列車が滑り込んだ時には、
アトーチャ駅に、あ、到着。
そして、しめくくりにも、
ユーラシアの端から端まで、いったい何百時間、こうして窓を眺めていたかわからない。尾骶骨のあたりがジーンとしびれてきていて、それがまるで自分に与えられた勲章のようにも思える。尻がジーンとシビレア鉄道なのである。