姫野カオルコさん作。
3歳とか4歳とかの記憶をよりどころにして構成された短編集。
どれも物悲しさを帯びている。
そういえば、記憶というのはどれも物悲しいものだ。
どんなにいい思い出であっても、思い返すと、何も知らず何もできなかった自分に恥いる。
ああしておればよかった、あんなことするんじゃなかった、と悔やむばかり。
なんだか親しみのわく文章だなあと思っていたら、この人が関西出身の人だったから。
セリフが京都を思わせる言葉だったが、滋賀の人でした。
土地の近さに加えて、年代的にも近かったことがさらに物語を身近にしてくれた。
「シール」というのも、遠い記憶が蘇った。
普通に貼るシールではなくて、壁や窓に当てて擦り、そおっと剥がすと絵が写しとられるシールだ。
家の白い壁にやって、親に叱られたものだ。
「特急こだま東海道線を走る」は、こだま号に乗って旅した話ではなかった。
父母の諍いの重苦しい雰囲気に耐えられず、欲しくもないこだま号のおもちゃをわがままを言って買ってもらう話だ。
なぜこだま号が欲しかったのかを父母には説明できなかったが、家にお米を配達してくれる赤川さんにだけはなぜか伝えたくて、赤川さんと土間でおもちゃのこだま号を走らせる。
こだま号の色を、卵豆腐色に赤の帯、と書いているのもこの人らしい。
ぼくも、こだま号のおもちゃ、家にありました。