いちばんべったこ

tabi noti dokusyo tokidoki guti

ハテルマシキナ

桜井信夫さん作。

もう一つの沖縄戦、と言われた波照間島マラリア地獄を描いた長編叙事詩

爽やかな青年教師としてやってきた山下が豹変し、島民に西表島への強制移住を命じる。

日本刀を振り上げ、一人でも逆らえば全員の首を切るという。

家族同然に育ててきた牛や馬も、敵の食料にされないよう全て殺していかねばならなかった。

西表に移住してからも、ハエ取りの数が少ないといって一年生は一回、二年生は二回、三年生は三回と青竹で容赦なく叩かれる。

南風見崎のぎざぎざ岩の岩場で、ただ一人の識名校長のもと、子どもたちが集められささやかな入学式が行われた。

校舎や教室がなくても勉強を始めようとしていたのに、命令者山下が現れて勝手なことは許さぬぞとやめさせた。

沖縄戦が終わり、八重山郡島守備隊の旅団長が波照間への帰島を許可しても、山下はおれが許可しないのだ、おれの命令にそむく者はおれが斬ると言った。

その時に、識名校長が進み出て、斬るなら、わたしを斬れと立ちはだかった。

帰島が決まり、引き上げる直前、識名校長はあの岩場に、

コノ石ワスルナカレ(忘勿石)

テルマシキナ

と消えることのない文字を刻んだ。

 

その後、山下は陸軍中野学校の出身で、参謀本部と直結する特殊任務要員だったと分かる。

 

この本が取り掛かりから10年をかけて世に出たおかげで、波照間の悲劇をぼくたちが知ることができ、こんな苦しい思いで亡くなっていった波照間の人たちの思いを引き継いでいかねばという気持ちを強くさせられます。

 

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