この人の文は、いいですね。
何も事件は起こらない日常がうまく描かれています。
木造の昔のままのれんげ荘。
そこで暮らす人のありふれた日々が、愛おしくなります。
例えばこんな文。
自分がこういう生活を選んだのは、毎日、穏やかに人になるべく迷惑をかけず、納得して生きたいと思ったからだったのではないか。可能性があるということは、野心を持つことでもある。それは素晴らしいけれど、人によっては周囲の人間を踏みつけ、自分を目立たせ続けようとする場合もある。そういう人たちと関わるのは嫌だ。もっとひっそりと生きたかったのである。
最後の一文がまたいいのです。
そしていつもネコたちに会える、住宅地の奥のネコだまりの空き地まで歩いて行った。
それからの光景が目に浮かぶような終わり方です。