村山由佳さん作。
『おいしいコーヒーのいれ方』のあとがきで、この本のことを書いておられたので、読んでみたいと思っていました。
やっと読めました。
かれんとショーリのように、兄妹なのに惹かれ合う暁と沙恵。
その家族たちの物語。
六つの章がそれぞれ、違う人の視点で描かれている。
まずは、暁。
次に、その末の妹美希。暁は先妻の、美希は後妻の子。
その次は、沙恵。
そして、一番上の兄、貢。
その次は、貢の娘の聡美。
最後は、4人の兄弟たちの父親、重之だ。
厳しすぎる父の不貞に反発し家を飛び出した暁が、義母志津子の死をきっかけに水島家に戻ってくるところから物語がはじまる。そして、沙恵と出会ってしまう。
美希は一人暮らしで、妻のある男との関係を続けている。
一番上で歳の離れた貢は家庭を持っているが、妻にも浮気相手にも心を癒されない。
偏屈な父重之と暮らしているのは沙恵だけ。
兄弟みんなが、父のために人生を歪められてきたようなものだ。
いつもながら、立ち止まってため息をつくような文章が、いくつかあった。
例えば、こんなところ。
どうして人は、つらいことがあると北を目指すのだろう。
時がたつのを待つ以外にどうしようもないこともあるのだということを、彼自身、よく知っていたのかもしれない。
涙など、あふれはしなかった。
あふれてくるのはただ、青みだつような寂しさだけだった。
伏せた目の中を、鈍痛のような重い悲しみがよぎるのが見えた。
ところが、最後の重之の章を読み出すと、今まで憎しみさえ感じていた重之に寄り添う気持ちになってしまう。
次の一文が、出会ってきたすべての人たちの悲しみを、少しだけ和らげてくれます。
幸福とは呼べぬ幸せも、あるのかもしれない。