平出隆作。
著者は詩人で、作家で、多摩美術大学教授。
詩人らしい文章。悲しい物語でした。
夫婦の借家の庭に子猫が迷い込んでくる。
大家さんからペットは禁止と言われていたので、家には上げなかった。
すると、隣からぼくが飼うという声が聞こえて来た。どうやら、隣のうちの飼い猫になったようだ。
自由に外にも出しているので、夫婦の家にもよくやってくる。
エサもやり、段ボールで寝床も拵えてやって、だんだん可愛がるようになった。
チビと呼び、大家のお婆さんも、大目に見てくれるほどだった。
猫は、抱かせてはくれなかった。抱こうとするとするりと逃げていく。
毎日やってくる猫とともに、穏やかな月日が流れたが、ある時ぱたりと姿を見せなくなった。
帰ってきたら食べさせようと魚を用意していたが、いくら待っても姿を現さない。
ほとんど付き合いのない隣家に電話して、猫のことを尋ねてみた。
電話には男の子が出て、死んだよと答える。
この場面は、先を栞で隠しながら読んだ。
隣家を訪ね悲しんでいる奥さんに、実はうちにもよくきていて可愛がっていたので、花でも供えさせてほしいと伝えるが、明日の朝にでもまた電話してくれと言われる。
次の日電話してみたがなかなかつながらず、昼頃になってようやく奥さんが出る。
人の猫を黙って可愛がっていたことに腹を立てているのか、花を供えることもその根元に埋めたという松の木も見ることができなくなってしまう。
そして、大家のお婆さんが施設に行くこととなり、借家を出ていかなければならなくなった。