寺地はるなさんの本。
偏屈ですぐ怒鳴り散らす祖父。
3人の娘がいるが、祖母が出奔してから誰も一緒に住んでくれない。
祖母の名前の一字をもらった孫の桐矢に白羽の矢が立てられ、祖父と一緒に住むことになる。
はじめはどうしようもない迷惑な老人に見える祖父が、終わりの方ではなんだか愛おしくなってしまう。
小説のマジックです。
戦中戦後を親戚の家を盥回しにされ、やっと就職したピース食品でレトルトカレーの営業に一生懸命だった祖父の不器用な生きざまが明らかになる。
娘が生まれるたび、「なんだ、女か」「また女か」とあけすけに言っていた祖父が、実は家族を大切にしていたことが分かる。
そんな物語です。
カレールーを使わないカレーも作ってみたくなりました。
寺地さんの、次の一文を書き留めました。
たいしたもんや。祖父は二度その言葉を口にして、あとはずっと、静かに目を閉じていた。母の手が震えていた。じっと見ていなければわからないぐらいの、ほんのわずかな震えだったけれども。鋏の動きがとまって、完全な沈黙が部屋の中を支配した。無数の声にならない言葉たちが、ふたりのあいだに降り積もっていくように見えた。