キャサリン・ブルートン作。
いくつか借りた本の中で、おまけみたいに借りた一冊なんだけど、この本がいちばん感動しました。
シリアからトルコ、ギリシャを通り、イギリスにたどり着いたアーヤの物語です。
海を渡るときパパが守ってくれて、ママと赤ちゃんのムーサと3人だけ助かった。
イギリス、マンチェスターの支援センターで難民申請をしながら次のいき場所が決まるのをくる日もくる日も待っている。
2階から聞こえてきたバレエの音楽に誘われ、ドッティと友だちになる。このドッティがとてもいい子なのです。
アーヤがドッティと友だちになる場面の2人の会話がステキです。
「あたしの悩みなんか・・・」ドッティは、ぷるっと体をゆすった。「あなたは、住んでた町が爆撃されてこっぱみじんになっちゃって、イギリスにいられるかどうかもわからないっていうのにね。バレエスクールとかステージママのことでグチをいうなんて、ほんとバカみたい」
「そんなことない」アーヤは、きっぱりといった。それは本心だった。
アーヤがずっと難民だったわけじゃないという一文にもハッとさせられました。
ドッティのおかげで、バレースクールに入れることになります。
そこで教えるミス・ヘレナも第二次大戦でチェコスロバキアからたった1人でイギリスに渡ってきた難民でした。
そのことは、後で少しずつ明かされます。
アレッポにいるとき爆弾で怪我をした足の傷を見て、ミス・ヘレナはアーヤに言います。
「わたしたちは、誇りを持って傷をまとうの」
ミス・ヘレナはきっぱりといった。
「傷には、わたしたちが苦しんで、それをのりこえてきた歴史がこめられているからよ。そうじゃない、アーヤ?」
いつの時代にも戦争や侵略や虐待があった。それは何度も繰り返されてなくならない。
だけど、いつの時代にも難民を受け入れたり、困った人たちに援助の手を差し伸べようとする人たちがいた。そうして、世の中がいい方向に少しずつ進んでいることは間違いない。
ミス・ヘレナの言葉には重みがあります。
物語は、政府軍と反体制派の戦争が激化したアレッポや収容所での暮らしと、難民として不安な毎日を送るイギリスでの暮らしが交互に描かれています。
読んでいて辛くなるアレッポからイギリスまでの長く辛い時間は、ほんの数ページにまとめて間に挟み込まれていて、ずっと悲しい時間が続くわけではないので、ホッとできます。
それでも、アーヤの気持ちを思うと辛くなるのですけどね。
アレッポのバレエスクールで一緒だった友だちが今どうしているか、爆弾で即死した友だちの妹やもう戻ってこないパパのことを考えると、踊ってる場合じゃないと思うのですが、その思いをどうやって前向きに変えていくかも読み応えのあるところです。