いちばんべったこ

tabi noti dokusyo tokidoki guti

この気持ちもいつか忘れる

住野よるさん作。

この二日間、住野ワールドにどっぷり浸かってました。

読み終わって、今さっきやっと現実に帰って来た感じ。

 

主人公カヤは、平凡な高校生活に満足できず、生きていることがつまらなくて、常にイライラしていた。

部活には入らず、授業が終わるとすぐに下駄箱に向かう。

夜ひとりで走るのが日課で、廃止になったバスの待合室で休憩する。

そこで女の子と知り合いになる。

女の子と言っても、暗闇の中で彼女は二つの目と爪だけが光り、姿は見えない。

言葉を交わすうちに、彼女は人間のような姿だが異世界の生き物だとわかる。

打ち捨てられたバスの待合室が、異世界とこの世の接点になっていたのだ。

彼女のことをチカと呼び、お互いの世界や文化のことを知らせ合ううち、チカに惹かれていく。

つまらない人生の中で、チカと会うことだけが唯一の生きがいになる。

たまにしか会えないが、蜜月が数ヶ月続く。

しかし、チカが自分のすべてを話してくれなかったとことに落胆し、会わなくなってしまう。

 

15年ほどの月日が流れる。チカと過ごした時がピークで、その後の人生は余生のようなものだと思ってカヤは過ごして来た。

周りのことはすべてどうでもよくて、でも表面上は面倒なことを避けてうまく流れに任せて生きて来た。

母の葬儀で故郷に帰った時に親しくもなかった同級生と再会し、付き合うようになった。

でも好きになったわけではなかった。好きなのはチカだけだと思っていた。

ところが、チカが好きだったのは事実で記憶にあるが、その時の気持ちがもう思い出せなくなっていることに気づき、愕然となる。

 

自分だけが特別だという傲慢な気持ちが、一人ひとりが特別なんだと変わっていく。今まで真剣に生きてこなかった主人公が、ようやく人生に前向きになる物語。

 

f:id:kuroneko356:20221003010130j:image