寺地はるなさんの4冊目。
これもとてもよかった。
花マル、星5つ、鐘3つです。
この人の物語は、家族のことを描くことが多いですが、この物語もそうでした。
主人公は、山吹。
姉の紅と弟の青磁の3人兄弟。
読み始め、山吹は女の子かと思って読んでいましたが、男の子でした。
家は工務店をしていますが、父はやる気なく従業員のおかげでもっています。
母は、紅と山吹には目を向けず、青磁が事故で亡くなってから気がふれたようになっていました。
おじいちゃんは、山に遊園地を作ると言って、村の人たちから嘘つきと陰で囁かれています。
そんなばらばらで救い難い家族の記録が、1988年5月から2018年5月まで、5年ごとに区切られた7つの章で語られます。
この作者は、ぼくが言葉にできない心の中のふとした想いや、なんとなく感じる小さな気持ちの迷いなどを、うまく言葉にして綴ってくれている気がします。
例えば、次のような一文。
俺の家はお父さんとお母さんとおじいちゃんとおばあちゃんとねえちゃんがおったけど、家族の誰と一緒におっても、かえってさびしかった。
読んでいて、そうやんなーと、繰り返し読み直してしまうところもしばしば。
例えば、おばあちゃんとのやりとり。
「世界に役に立つものしか存在せんやったら、あんたどうする」
「そんな世界、おことわりよ」
「あんたは社会にとってなんの役にも立ってない子」
「でもそれは、山吹がこの世に存在しなくていい、という理由にはならんでしょ」
読み終わったら、嘘をつくことも、まんざら悪いことではないような気がしてきます。