とてもいい物語でした。
天(主人公です)の章から始まり、16年前の中学生時代に戻って、天とミナと藤生の3人のそれぞれの視点からの章で物語が進んでいく。
村の何もかもが嫌で、小説を書きながら早く東京に行きたいと思っていた天。
村の伝統行事の天衝舞浮立を踊る練習を、なんとかしてサボろうとするほどはっきりしている。
父は、子どもは犬と同じで叩いて躾けるものと公言している。母も厳しい。
ミナのようなフワッとしたお母さんがいいと思っている。
ミナは東京から引っ越してきた転校生で、村の権力者が祖父。
父は次男だが長男が事故死したので、仕方なく故郷の佐賀に帰ってきた。母は、村に馴染めず家庭はギクシャクしていた。
藤生に自分の方を向いて欲しいが、藤生はいつも天のことを見ている。
藤生は天とは幼馴染で、レストランかなりあを切り盛りする母と2人暮らし。
周りからは、ミナとお似合いだと言われるが、奔放な天のことを心の中でずっと思い続けている。
田舎はのどかでいいと移住してきた五十嵐との関わりから、村のしがらみや他所者を受け入れない年寄りたちの頭の硬さも描かれる。
16年後、途絶えていた天衝舞浮立が復活されるのを機に、3人が村に戻って再会することになる。
16年後もまた、ミナと藤生と天のそれぞれの視点からの章で語られていく。
天のセリフと、藤生の思いが書かれた次の一説が、特によかった。
「でももう、それでもいい気がする。今さっき、した。もうわたし、わたしでいいや」
他人に「しっかりしないとね」って言えるような生きかたのほうが、たぶん正解なのだ。そして人生は正解に沿って生きるほうがきっと楽だ、自分の頭で考えなくてすむから。天はそんな言葉をゆっくりと連ねていく。ひとつひとつ、手にとって確かめるようにして。
「どうしてわたしはあの子じゃないんだろう、っていつも誰かをうらやましがってた。でもわたしはやっぱり他人の必死さを笑ったり、心配するふりして気持ちよくなったりする側より、笑われる側にいるほうがずっといい」