いちばんべったこ

tabi noti dokusyo tokidoki guti

極北の犬 トヨン

ニコライ・カラーシニコフ作。

高杉一郎訳。

ツンドラに生きるグランの犬、トヨンの壮大な一代記。

シベリアに流される途中の話者が、ヴェルホヤンスクで泊めてもらったヤクート人のグランの家で、年老いたトヨンという犬に出会う。

トヨンがどうしてその家で守り神のように大事にされているのか、燃える囲炉裏の前でグランが語り始める。

まるで、『大造爺さんとガン』のような構成の物語。

第3章からトヨンの話が始まる。そこから第23章まで260ページにわたってトヨンの話が続いてゆく。

その間、ツンドラの世界に入り込んで、トヨンやグランとともに時を過ごしている気持ちになる。

大吹雪の日に、タルトゥじいさんの安否を尋ねて訪れたグランは、弱り果てたじいさんから孫のダーンと子犬のトヨンを託される。

このトヨンが来てから、グランの家族には幸せがたくさんやってくるようになった。

猟の獲物は増え、トナカイの数も増えた。オオカミがやって来ても、トヨンがいれば心強かった。

となり郷の大金持ちクララーフとの競馬にも勝って、しろという犬を譲り受けることもできた。

でも、若いトヨンはあまりに元気が良すぎて、相手にしなくてもいいクマにも手を出して、最愛のしろを亡くしてしまう不幸にもあう。トヨンは、食欲も無くし、長い間元気にならなかった。

娘のナータとダーンが日暮れまでに家に帰りつけずに、雪の中の洞窟で狼に囲まれたときにも、トヨンが助けに来てくれた。

ゴールドラッシュの町にトナカイを売りに行ったときにも、騙されたグランの命を助けたのはトヨンだった。

早くサケを取りたくて、まだこおり切っていない湖に行ったダーンは、湖に落ちてしまう。いっしょに行ったトヨンは助けようとするが、トヨンもはまってしまって、死線をさまよう。

なんとか命は取り留めたが、歩くことができなくなってしまった。

その時のディムじいさんの言葉が心に残る。

ツンドラは、寒々として無情な土地だというが、わしらの心はこんなにもあたたかい。むかしの人が、人生はどこにもある、ツンドラにだってあるといったが、ほんとうだ。」

この土地に生きて来た人の文化や信仰を感じ、生き物に対する温情が伝わって来た。

訳者は、戦後3年間のシベリア抑留経験を持つ。

この物語への思い入れは大きいのだろう。冬の空気のような引き締まった訳文。冷静な中に暖かさがあります。

 

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