いちばんべったこ

tabi noti dokusyo tokidoki guti

花や今宵の

ずっと探していた藤谷治さんの本。
中学校の図書室で見つけた。
『船に乗れ』を書いた人だ。


前半から次のような巧みな文章表現に、どんどん引き込まれてゆく。









こういう時は、ただ社屋から一歩踏み出ただけで、空気が違う。酸素と窒素と二酸化炭素に加えて、大気中に「解放感」が含まれているのが判る。駅に向かって歩きながら、当たり前なはずなのに、遠い真実ー人生会社がすべてじゃないという真実を、ぼくは胸いっぱいに吸いこんだ。









ほんのひと月ほどの期間のことだけれど、そのときの、何もかもから離れているみたいな、宙に浮いている、というわけでもなく、取り残されている、というわけでもない、異様な孤独感は、今でも印象に残っている。それはまったく陰気なものじゃなかった。寂しくもなかった。東京の暗い部屋で大人たちが叫んでいるときのほうが、ずっと寂しかった。山の中でぼくは、ひろびろとしていた。


そして、へーけのまつえー、と言われる故郷のしんのという山の謎に、ますます目が離せなくなる。

平忠度の歌も、この物語で初めて知った。

映画化されたら、絶対見に行きたい。